投影査定心理学(総論①)

目次

1 はじめに

テキストのまえがきにも書かれているが、「投影査定心理学特論」という科目名に違和感を感じるのはきっと私だけではないと思う.
「投影心理学」とか「査定心理学」と言う言葉であればまだ良かった.
しかし、このテキストに書かれている内容をよく見ると「投影査定」という言葉が適切ではないかとも思えてくるくるから不思議である.
 
ここでは、投影法の総論についてまとめた.
 

1.1 メニュー

区分 項目
総論① 投影法とは何か
総論② 投影法とパーソナリティ理論
総論③ 心理臨床における投影法
総論④ 心理学における投影法と関連領域
総論⑤ 投影法の可能性
各論① 視覚連想法1
各論② 視覚連想法2
各論③ 物語作成法
各論④ 描画法1
各論⑤ 描画法2
各論⑥ 言語連想法
各論⑦ その他の投影法

2 投影法とは

投影法とは心理検査の一形式.
 

2.1 心理検査の種類と形式

主に以下の3種類(知能検査・人格検査・神経心理学的検査)の検査がある. 
 

知能検査 ビネー式 田中・ビネー式知能検査
知能検査 ウェクスラー式 WAIS-Ⅲ、WISC-Ⅳ、WPPSI
人格検査 投影法 ロールシャッハ法、ハンドテスト、TAT、SAT、CAT、MAPS、P-F スタディ、SCT、言語連想検査、バウムテスト、H-T-P、DAP、風景構成法、家族画
人格検査 質問紙法 Y-G、16PF、MPI、CPI、MMPI、東大式エゴグラム(TEG)、Big-Five 質問紙
人格検査 作業検査法 内田-クレペリン精神作業検査
神経心理学的検査   ベンダー・ゲシュタルト検査(BVMGT)、レーベン・マトリックス検査(RMT)、ウィスコンシン・カード分類検査(WMS-R)、遂行機能障害症状検査(BADS)、ことわざテスト(Proverbs Test)

 

  • 知能検査は知能を測るという点でパーソナリティ(人格)検査とは区別される.
  • 同じ知能検査でも精神発達、精神年齢を基盤とするビネー式と知能分布を基盤とするウェクスラー式とに形式上分類される.

 
投影法はパーソナリティを把握するという点でパーソナリティ検査という種類に属するが、その形式上、 質問紙法と区別される 心理検査の総称である.
 

2.2 検査の客観性

  • 米国では、投影法の対照として、質問紙法を客観的検査(objective test)と呼んでいる(Trull & Phares, 2001).
  • 客観的とは-「客観的に採点されるという意味であり、採点には特別な判断や専門的な経験がなくても誰でも可能であり、コンピュータを用いることも可能である」(Hogan, 2007).
  • 英国では、客観的検査とは実験室における行動観察であり、それに基づくパーソナリティ特徴の評価である(Eysenck, M. W., 2000)

2.3 Eysenck の パーソナリティ検査

 

  • 質問紙法
  • 評定法
  • 客観検査
  • 投影法

 

2.4 「投影法」(projective method)という用語

1939年にフランク(Frank, L, K.)によって3つの心理検査を提唱した.
 

  • ロールシャッハ法
  • 絵画主題統覚検査(TAT)
  • 言語連想検査

 

2.4.1 『パーソナリティ研究のための投影法』

「あまり構造化されておらず、特定の文化的な反応パターンを引き起こさない場や対象を」、個人はその人独自のやり方で構造化し解釈して、「個人の私的な世界」を垣間見させてくれると述べている.
この「あまり構造化されておらず」という場や対象の刺激特性が、その後曖昧な図形とか漠然とした刺激が投影法の特徴とみなされることになった.

2.5 マレー(Murry, H. A.)の パーソナリティ検査

  • TATを「投影法検査」と呼んでいる
  • 人間の行動の根本的な理解は下等な有機体や非常に限定された条件下での人間行動の研究からは得られるものではない.
  • むしろ、人の行動の全体的な研究から得られるものである.
  • 心理学者は何よりも内的過程について多くを語ることのできる話す有機体を対象にしているということを意識すべき.

2.6 精神分析学における投射

投射という言葉が精神分析学で初めて用いられたのは、1895年~1896年にかけて発表された2つの論文である(Anzieu, D., 1960 ; Laplanch, J., & Pontalis, J. B., 1973).
 

2.6.1 『不安神経症』

 

精神は外科医から迫る課題(危険)を、これに相応する処理ができないと感ずると、不安という感情に陥るし、内面から生じた(性的)興奮を鎮めることができないとわかると、不安の神経症に陥る.精神はしたがってこの興奮を下界に投射したかのような態度を示す.

 

2.6.2 『防衛-神経精神病についての新たな考察』

パラノイアでは、投射と名付けることのできるようなやり方で非難が抑圧されると同時に、他者へ向けられた警戒心という防衛症状が作られる(Freud, S., 1989, p145).

 
不快な感情、承認しがたい欲動や考えなどを自分のものとせず、他者のものとみなすという防衛機制が投射と呼ばれることになる.

2.6.3 『自伝的に記述されたパラノイアの一症例に関する精神分析的考察』

基本的な防衛機制として、より明確に投射の働きについて言及したのは、1911年 に発表された、シュレーバー症例と呼ばれている.

2.6.3.1 シュレーバー症例

ザクセン州控訴院院長であったシュレーバー(Schreber, D. P.)が1903年 に出版した『ある神経病患者の回想録』を手がかりに、妄想の成立機序を精神分析学の観点から論じたものである.
 

2.6.3.2 フロイト説

フロイトによれば、シュレーバーの抱いている被害妄想(X氏が私を憎んでいる、迫害している)は、”「私=一人の男性が、彼=他の一人の男性を愛する」”という命題に対する様々な反対意見として表すことができる(p.330).
 
そして、次のような発展を辿って、被害妄想が生じると指摘している.
 
 (a)私はX氏を愛する.(同性愛感情)
 (b) 私はX氏を愛さない.(否認と反動形成)
 (c) X氏が私を憎む(投射)
 
しかし、投射が防衛機制の一つであり、そこには不快な感情や認めがたい欲動の否認があるという初期の考えから、フロイトはその後次第に考えを変えていった.
 
そして、その結果、1921年 に発表された『幻想の未来』では防衛機制を考慮に入れない投射について論じている.
 

投射は、防衛のために作られたのではなくて、葛藤がない場合でも成立するのである.内的知覚の外部は原始的メカニズムである.(p.243)

 

2.7 心理アセスメントにおける投射

今日の投影法における投影の概念は、 必ずしも精神分析学の防衛機制としての投射の概念、すなわち抑圧された無意識という考え方を含んではいない.
 
心理アセスメントにおける投影の概念は、projection の形容詞である projective という言葉を採用しているものの、投射よりも広いものである.

2.7.0.1 プロジェクター論

スクリーンにフィルムの映像が映し出されるように、内的な心理的特徴が外的刺激への反応としてそのまま映し出されるとする立場である.
 

外的世界の構成が、被検査者の個人的な世界の構成原理に従っている場合、投影(projection)とみなされる.このような観点からすれば、投影法とはみなされていない検査でも、多少なりとも被検査者の人格が関与しているという限り、投影法(projection)と考えるべきである.(Rappaport, D., 1950)

 
ウェクスラー知能検査でもある意味で、投影法検査として理解することが出来ると指摘している.
 
このような考え方をヴィグリオーネとリヴェラ(Viglione, D., & Rivera, B., 2010 )は、真っ白いスクリーンに喩えている.
 
彼らによれば、検査刺激は真っ白なスクリーンか、キャンバスであり、そこに被検査者の内的な世界が投影されているとみなされる.
 
被験者の認知するものすべてが、程度の差こそあれ、その個人を表しているということになる.
 
その点に関して、ラパポートは、 投影法かそうでないかの区別は検査素材や求められている課題の構造度によると指摘している.
 
所謂、曖昧な刺激という検査素材の特徴である.しかし、 ラパポートが重視 したのは単に刺激が曖昧で構造化されていないという点だけではなく、 刺激が構造化されていないことによって喚起される不安への対処の仕方は、ある意味では防衛機制に他ならず、投影法は自我の働きを明らかにしてくれる検査と考えられる.
 

2.7.0.2 レントゲン論

フランク(1939)とマレー(1938)は、心理検査を心のレントゲン写真に喩えた.
 
マレーは、投影法検査が前意識や無意識という直接把握できない心の内部を、客観的に捉えることができるのではないかということで、いわば目に見えない病巣を露にしてくれるレントゲン写真と同じ働きをしてくれるものと考えた.
 
フランクは、必ずしも無意識の把握を考えていたわけではなかった.外部からは見ることができない身体内部の諸器官を非浸潤的な手段で手に取るように見ることを可能にした.
 
べラック(Bellak, L., 1950)は実験的に証明した.彼は、怒りを覚えるようにとの後催眠暗示を与えた場合と与えなかった場合、TAT の物語に違いが認められるか否かを実験的に調べた.その結果、そのような 後催眠暗示を与えられた場合には、与えられなかった場合に比べて有意に攻撃的な内容の反応が多かった.しかし、怒りや憂うつ感などの否定的な感情だけでなく、高揚感など肯定的な感情の暗示を与えた場合も結果に差が認められた.これらの結果から、べラックは精神分析学の指摘するような防衛機制だけでは、投影の概念を説明できないと考えている.
 

2.7.0.3 統覚論

パーソナリティの大きな要因である 個人の感情や欲求、あるいは過去の経験が個人の知覚に大きな影響 を与えていることを指摘したのは、所謂、ニュールック心理学者たちであった.
 
親の経済状態により、子供の円の大きさ判断に差があることを実験的に示したブルーナー(Bruner, J.)の研究はその先鞭となった.
 
ロールシャッハ法のような知覚課題である投影法は、知覚像における個人差をとおしてパーソナリティを把握しようとしていると言える.
 
この点について、小保内(1958)は、以下の様に述べている.
 

今日、ニュールック知覚研究家が知覚に関していろいろな概念を提出しているが、それらは操作的であるという点では進歩を示しているものの、本質はロールシャッハのいったことと、そんなに違うものではない

 
知覚の個人差を測定誤差として捉えるのではなく、知覚研究における経験やパーソナリティの要因を重視したニュールック心理学に対して、臨床分野から知覚の問題に取り組んだのは、べラック(1950)である.
 
彼は、知覚(perception)という用語が要素的な心的機能を意味し、パーソナリティ全体と関係していないので採用せずに、 統覚(apperception) という用語を提唱している.
 

統覚は、生体による知覚の(力動的で)意味ある解釈と定義される.

 
そして、統覚が主観的な解釈であるため、意味のある統覚的歪曲には程度の差があり、大多数の人たちが一致した統覚はほぼ客観的な(objective)知覚であると操作的に定義できる.
 
べラックは、統覚的歪曲として、以下の4種類を挙げている.
 

  1. 投射(projection)

    精神分析学でいう投射であり、抑圧や否認なども防衛機制と関係した歪曲である.

  2. 単純な投影(simple projection)

    この歪曲は、日常場面で遭遇するもので、臨床的な意義がないもの.この投影は過去の経験が現在の状況に影響を与えての歪曲である.

    鋭敏化(sensitization)
    現実に存在する刺激に対して敏感に知覚し反応することであり、時に実際には存在しないにもかかわらず、それを感じ取ることである.

  3. 外在化

    個人の体験に基づいて歪曲されるものである.投射や単純な投影、鋭敏化などと比べると容易に気付かれるもので、時にその説明がなされる歪曲である. 

2.7.0.4 問題解決論

ヴィグリオーネとリヴェラ(2010)は、フランクはレントゲン論を述べてはいるが、レントゲンを照射して把握しようとしているパーソナリティは静的で受動的な性質のものではなく、ダイナミックで能動的な性質のものであると考えていた.
 
投影検査と呼ばれているものは、遂行課題によるパーソナリティ査定と呼ぶべきであると主張している.
 
投影法検査の多くは被検査者のパーソナリティ特徴を引き出すために一定の課題を果たしており、この 課題の遂行が、知能や神経心理学的な問題を明らかにしてくれる認知的課題の遂行による検査と同じように、パーソナリティ特徴を明らかにしてくれる. 課題をどのように解決していくか、またどのような対処を行っていくかという問題解決の中にパーソナリティ特徴がそれとなく示され、検査者の目の前で繰り広げられる.この点、 質問紙法のようにある性格特性を被検査者に帰属させるものではない. 遂行課題によるパーソナリティ査定は、複雑な遂行行動の精査や暗示される心的過程の推論などをとおして、パーソナリティに関する確かな情報を提供してくれると述べている.

2.8 投影法の表記

投影法の投影概念と同様に、その表記をめぐっても混乱が認められる.投影法の語源である projective という形容詞はたとえばメリアム・ウェブスター英英辞典を見ても載っていない.project という動詞の形容詞は、projectile だけである.
 
しかし、今日の projective という形容詞は、専門用語としては広く採用されている.心理学分野では投影法として、数学分野では射影幾何学として、形容詞の形で用いられている.

2.8.1 投影法と投映法

精神分析学の防衛機制として投射(projection)という用語があり、当初日本では projective method は投射法と訳されることが多かった(宮城 (1065)).
 
投影法の投影概念が精神分析学の投射と関連付けて考えられやすいために、精神分析用語とあえて区別するために投影法という表記が用いられたという.
 

3 参考文献

小川俊樹, & 伊藤宗親. (2015). 投影査定心理学特論 (放送大学大学院教材). 放送大学教育振興会.

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著者: Satoshi Takemoto Satoshi Takemoto

Created: 2017-10-21 土 10:23

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