生理学

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2017-05-14 1300. 生理学 コメントはまだありません

生理学

1 はじめに

ここでは、生理学的観点から私の研究テーマに関する慢性疼痛やうつ病に関わる情動と精神疾患 (感情と精神疾患の関連)について医学的な観点から詳しくみていきたい。

2 生理学 (physiology)

生体の示す特有な現象を生命現象という。生理学は生命現象の機序を研究する自然科学である。

3 こころの所在

医学的には、心は脳であり脳が人間の身体のすべてのコントロールを行っていると考えられている。ここでは、生理学的観点に基づき「こころとは脳である」という仮定の下、医学的な説明を行いながら、情動変化による生命現象について詳しくみていきたい。

4 脳の概要

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出典: Rauber-Kopsch 解剖学

生理学的には、感情には身体感覚に関連した無意識な感情(emotion, 情動)と意識的な感情(feelingもしくはemotional feeling)と分類されることが多い。意識的感情(feeling)には、大脳皮質(大脳の表面)とりわけ帯状回、前頭葉が関与している。

無意識感情には、皮質下(脳の中心の方)の扁桃体、視床下部、脳幹に加えて、自律神経系、内分泌系、骨格筋などの末梢系(脳の外の組織)が関与する。しかし、感情も情動も、皮質と帯状回のみで成立する、という反論も存在する(Rollsたち)。

wikipedia 至近要因-感情の脳科学

5 大脳辺縁系

くわしいことは脳のはたらきについて書かれた本がたくさんあるので 18)19)、それを見ていただきたい。神経解剖学で大脳辺縁系と呼んでいる部分は、人間で最もよく発達した大脳半球表面の新皮質におおわれて外面では見ることができない。左右半球をたてに切断すると見ることのできる、脳の中心部(脳幹)を取り囲む帯状の領域なので辺縁という名がつけられている。新皮質よりも発生の古い海馬、帯状回などの皮質と扁桃核その他の神経核から構成されている。

これまでの多くの臨床的および実験的研究によって辺縁系は、新皮質が認知、思考、判断、合目的行為などの知的行動と関係があるのに対して、食欲、性欲、集団欲など本能的欲動と関係があり、さらには快、不快、恐れ、怒りのような情動 emotion の基地であることが確かめられている。辺縁系は視床下部と神経連絡をもっており、視床下部の上級司令部が辺縁系であることも、これまでの研究で確実となっている。

辺縁系が活動する機序については、新皮質との連絡があって、新皮質でのストレス認知が連絡路を介して辺縁系を活性化する(情動の喚起)と考えれている。このような機序があることは確かであるが、その他に脳幹網様体が重要な役割を果たしていることがアメリカの神経解剖学者 Horace W.Magoun(1907-)13)らの研究によって確かめられた。

情動と精神の異常 – 脳のしくみ –

6 情動

ここでまず情動と情動の座について説明を加えたい。なぜならば、躁うつ病の障害部位は情動の座を巻き込んでいると考えられるし、情動は実験動物で実によく調べられているからである。情動とは、個体および種族維持のための生得的な要求が脅かされる、あるいは充たされた時の「感情体験」およびそれに伴う行動などの「身体反応」と定義される(堀、1991)。

情動は、一次性情動と二次性情動とに分けられる。一次性情動とは個体の生存および種族維持の不可欠な身体的要求を知らせる感情であり、渇き、空腹、空気飢餓、求温、求冷、睡眠、休息、要求、性欲などの欲である。

二次性情動とは、一次性情動から派生する感情であり、基本的要求が充たされない(あるいは脅かされる)状況で発生するのが、不快、怒り、恐れ、不安であり、充たされそうな(あるいは充たされた)ときに生じるのが、快感、喜び、安心感、エクスタシーである。そして、これらの情動に基づく行動パターンが、攻撃、防御、探索、満足、落胆、愛撫であるとされる。

感覚入力には、外部環境や内部環境を背景として、情動的評価が付加される。この時、ヒトの二次性情動は、多くを学習に依存し、過去の体験により修飾を受ける。そして、その脳内過程には、一次性情動の主要な座である扁桃体と視床下部から構成される辺縁系の基本回路に、前頭葉腹内側部(主に、眼窩前頭皮質)が加わるとされる(永福ら、1998)。トラの叫び声は、動物園で聞けば感動を呼び起こすだろうが、闇のジャングルで聞こえたならば、身も凍るような体験に生まれ変わる。感動が、辺縁系と前頭葉の営みで決定されているがゆえにこの様な違いが生じるのである。

次に、なされた情動的評価に基づく行動への動機付けが生まれ、行動が決定される。ここでは、視床下部と大脳基底核の役割が大きい。そしてまた、視床下部を中枢とする神経内分泌系および自律神経系の反応が生まれる。

情動と精神の異常 – 脳のしくみ –

7 躁うつ病と前頭前野

前頭前野*3の障害によって生じる。無感情、意欲の欠如、無為、無気力などの症状は、うつ病の中核症状と類似している。このことから、George ら(1994)は、前頭前野の一時的な機能障害がうつ病に起こっており、うつ病でみられるその他の症状は、前頭葉と辺縁系などとの機能統合の障害の結果として生じるのではないかと推定した。

さらに、躁病は前頭葉による扁桃体への制御の欠如が原因ではないかとも述べている。MRI による検討では、前頭前野の容積が、重症のうつ病患者(48 名)では、健常者(76名)に比べて、7%少なかったという報告がある(Coffey ら、1993)。MRS で同部位に生化学的異常を報告した研究も数多い(加藤、1996)。

FDG PET で、脳代謝率を調べた Baxter ら(1989)の報告では、左前外側前頭前野(ALPFC)での糖代謝率が、すべてのうつ病患者で健常者に比べて低下していた。しかもうつ病の重症度と糖代謝率との間に負の相関がみられ、うつ病が改善した時には糖代謝率も改善したという。

前頭前野、中でも ALPFC の血流の低下も数多く報告されている。H215OPET で局所脳血流を測定した Bench ら(1992、1993)によれば、うつ病患者(33 名)は年齢をマッチさせた健常者(23 名)に比べて、左帯状回(前部)および左 ALPFC の血流が低下していたという。しかも、①精神運動制止の程度と左ALPFC の血流低下との間に、また②認知機能障害と左内側前頭前野の血流低下との間に、さらに③不安の強さと右帯状回および両側の頭頂葉下部の活動性の亢進との間に、それぞれ相関が認められている。

SPECT による血流測定においてもほぼ同様の結果が出ている。高齢13うつ病患者ほど左前頭葉の血流低下が著明であったという報告もある( Anstin ら 、1992)。Mayberg ら(1994)は、再発性で治療抵抗性の重症うつ病患者において、前頭部、側頭葉前部。帯状回前部、尾状核の両側性の血流低下、中でも前頭葉下部、側頭葉前部、帯状回などの傍辺縁皮質での著明な血流低下を認めている。

精神作業負荷による賦活試験も行われている。ロンドン塔問題と呼ばれる、計画を立てて遂行する作業を与えると、健常者にみられる、右前頭前野、尾状核、帯状回前部での血流増加が、うつ病患者では著明に減弱していることを、Elliott ら(1997)が報告している。

再発性家族性うつ病(躁病の家族歴がない)と双極性障害(躁病相)患者を対象として 、PET を用いた脳血流と糖代謝率の測定に、さらに MRI による体積の測定を組み合わせて、厳密な検討を加えた Drevets ら(1997)の研究が最近報告され、話題を呼んだ。彼らは、帯状回前部に位置し、脳梁膝に接して腹側に局在する無顆粒皮質領域(脳梁膝下野:subgenual prefrontal cortex)において、双極性障害うつ病相で、血流および糖代謝の低下を認め、単極性うつ病患者で糖代謝率の低下を確認した(図 1)。

また躁病患者では逆に、同部位の代謝率の代謝率の増加の認めた。さらに、MRI で同部位の体積を測定したところ、双極性障害および単極性障害ともに、健常者に比べて、体積が小さいことが判明した。同部位の体積は、病相が寛解しても変化はみられなかった。したがって、認められた器質的変化は、躁うつ病の脆弱性と結びついている脳の発達障害か、あるいは再発を繰り返した結果生じた器質的変化のどちらかであろう、と推論している。

以上みてきたように、比較的厳密に行われた画像研究の結果は、一致して、躁うつ病の病態に前頭前野が関わっていることを示している。

George ら(1994)は、「前頭前野の機能障害が、自己、世界、未来に対する悲観的で、頑なで、自動的な考えを生み出してしまうのであり、前頭前野が正常に機能している状態では、外界からの感情的入力を適切に処理でき、あるいは自己の情動反応を柔軟に調節できるのであろう」と述べている。

前頭前野は大脳基底核や辺縁系などと密接な神経ネットワークを形成している。これらのループ機能の障害が躁うつ病の広範囲にわたる臨床症状の形成に重要な役割を持つのかも知れない。一方、前頭前野の機能障害が、皮質下に起こった障害の結果として生じている可能性も十分考えられる。

情動と精神の異常 – 脳のしくみ –

8 脳腸相関とストレス

情動の大半は,まず,各感覚器官から入力された信号が脳内で処理され,嗅覚,視覚,聴覚,味覚,身体感覚の五感を統合することで成立する。これには,感覚が遮断されても,記憶を手掛かりに情動が惹起されるではないか,と反論する人がいそうである。

しかし,その記憶こそ,五感をもとに形成されたものに他ならない。即ち,情動の源流が五感であることに変わりはない。これら五感の中でもこれまであまり研究されて来なかったのが内的感覚(interoception)である。内的感覚とは,文字通り,身体内部の感覚である。

消化器,循環器,呼吸器,運動器,内分泌,泌尿器,生殖器,皮膚などの身体諸臓器からは意識にのぼる信号と意識にのぼらない信号の双方が脳に伝達されている。現在知られる手法によってほぼ遮断できる感覚は,視覚,聴覚,嗅覚,味覚,身体感覚の一部(触覚,温度覚,重力感覚)であり,内的感覚は遮断できない。

従って,内的感覚こそ,脳に入力される基礎的信号である。内的感覚によって情動がどのように変化するのかを研究することにより,情動の源流を明らかにできる。内的感覚には血糖上昇感,血圧上昇感,渇水感など,さまざまなものがある。この内,消化管の内臓感覚は臨床的に高頻度に遭遇するだけでなく,ストレス応答と深く結びついているため,極めて重要である。

福土 審. (2013). 脳腸相関とストレス. ストレス科学研究 2013, 28, 16-19

9 引用文献

ベアー, コ., パラディーン, 監訳 加藤 宏司, 後藤 薫, 藤井 聡, 山崎 良彦. (2015). カラー版 神経科学 - 脳の探求 -.

福土 審. (2013). 脳腸相関とストレス. ストレス科学研究 2013, 28, 16-19

川村光毅 脳の形態と機能―精神医学に関連して

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