臨床心理学研究法 – 質的研究法

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2017-05-14 2100. 研究法 コメントはまだありません

臨床心理学研究法 – 質的研究法

1 はじめに

質的研究 (Granded Theory Aproach ; GTA ) は概念の抽出や現象の特徴を記述可能なモデルや研究仮説を構築することに主眼を置いた研究法である。ただ、近年では質的研究か量的研究かというような単純なものではなく、両者の研究法を織り交ぜた混合研究法とい研究法もある。臨床心理学研究法にはさまざまな研究法があるが、ここでは質的研究法について詳しく述べてみたい。

2 量的研究と質的研究の違い

2.1 量的研究

  • 物理学の研究は、モノや形のあるものの現象、性質、特徴を研究をするものであり、扱われる現象は、条件を統制して同じ現象が再現し、それを繰り返して観測することにより、現象に関する命題の真偽が確率論的に推定され、法則が発見される。
  • 心理学が研究対象とする「人」は、個人が異なる個性や歴史を持っており、物理学モデルに準じた普遍的な法則の探求はごく狭い範囲のものに限られる。 例えば、感覚、知覚、初期の発達 といった領域では、個人差に比較的左右されない法則を立てることが比較的容易であった。
  • 確率論による判断をしやすくするには、観測する対象を数量化することが有効である。 数量化することで、観測結果の違いを精密に比較したり、同種の結果の出現頻度をカウントすることが容易になり、様々な統計的手法での解析が可能となる。
  • 数量化による確率・統計的な現象把握は研究法として非常に強力 であり、一般性、普遍性を維持したままで、より精密な検証ができる。
  • 数量化しやすく、妥当性の高い指標を立てたり、同じ条件の下で 同種の事象を反復・再現することが困難な領域には適用しにくい。
  • 実験室のような統制された環境で測定された指標が、 日常生活の生の現実から距離が離れてしまう可能性も否定できない。

2.2 量的研究の弱点を補償する考え方

  • 理論そのもの妥当性や必要性を問い直す視点
  • 集団より個人を重視する視点
  • 個性記述的・個人的なアプローチの重要性

質的研究と量的研究は組み合わせ不可能なほど相対立するものではないが、単純に交換がきくような関係にもない。

フリック 『質的研究入門』(1995/2002)

そして、「量的研究」を言い換えて、 「数量的あるいは実験的研究」 といい、ロジックが 「概念的-方法論的-実験的段階 のように直線的な流れを辿って行われる」 ことをフリックは指摘している。これが、 「直線的プロセス」 として、仮説が定義され、操作的に定義され、実証的に検証される段階を持つものとされている。 この研究法では、可能な限り一般化されたモデルを立てつつ仮設-検証を行うことに主眼が置かれている。そして、標準化された方法により、普遍妥当的な法則を公式化する。ことを目指している。

2.2.1 歴史的な背景

木下康仁の『グラウンデッド・セオリー・アプローチの実践』(2003) を参考にして研究の歴史を概観すると以下のようになる。

「質的研究」の基本理論は、1960年代、グレーザとストラウスが提唱した、データに密着した (grounded on data) 分析に端を発している。 彼らが看護学領域の研究者だったことから、この手法は看護学で広がり、ソーシャルワーク、教育等の領域に広がっていった。 「The Discovery of Grounded Theory: strategies for qualitative research」(データ対話型理論の発見 ; グレーザー、ストラウス, 1967) が最初にまとまった形で提出された。これは、 グラウンデッド・セオリー・アプローチ として影響力を持ち続けてきた。 「数量的研究法と質的研究法の特性を統合した新たな研究法」 を予感させるものであった。

その後、グレーザーとストラウスはそれぞれぞれに主張や強調点の置き方が異なり、グレーザーは、データから概念やカテゴリが「emergent (浮上)」してくることを重視し、ストラウスとコービンの方法は既存の解釈枠組みにデータを無理に合わせようとする (forcing) ものである。と木下は批判している。

このように、研究法の枠組み自体が固定化したものではなく、定式化されては修正されていくプロセスに身をゆだねているのも、大きく見れば近年の「質的」な研究の特徴である。

データを集積、整理する中で、特徴のあるグループを分けたり、データの特徴をうまく説明できるモデルや仮説を立てていく方向に模索し続ける手続きである。意味を有するデータをあえて数値化しないままで扱うところにも真骨頂がある。

質的研究法といっても、事象を見る視点や前提とするモデルは様々である。共通しているのは、日常生活や現場で遭遇する事象の個別性・一回性を、普遍性・反復可能性よりも尊重してデータ採集する研究法があたっている点である。質的研究法を用いる場合は、自分が採用する研究法が、様々あるアプローチのどの立場に近いのかを理解しておく必要がある。

2.2.1.1 木下康仁の『グラウンデッド・セオリー・アプローチの実践』(2003) についての私のまとめは こちら

3 「質的研究」の方法

3.1 質的研究の手続き

大雑把に手続きを要約すると以下のようになる。

番号 手続き 概要 説明
予備的仮定 研究設問の設定 研究対象を選定し、研究対象におけるどういう事実を明らかにしたいのかを決める
データ収集 サンプリング・・・理論的サンプリング 現場、又は原資料にあたって、質的データを収集する。ランダムサンプリングではなく理論的サンプリングを採用する
データ処理 文書化→コード化・カテゴリ化 得られたデータを発見的に整理する。データを扱いやすい形にする。
解釈・評価 整合性・妥当性の確認 発見された概念、カテゴリ、それらの相互関係から仮説を導き、研究当初の仮説との整合性を判断する。既存の研究成果や他の事例を参照し妥当性をチェックする。
仮説の修正   上記④検討結果を踏まえ、よりデータに適合し、説明力のある仮説へと修正していく。研究は上記①の段階から繰り返し行われる。

4

5 引用文献

齋藤高雅, &元永 拓郎. (2012). 臨床心理学研究法特論 (放送大学大学院教材) (新訂). 放送大学教育振興会.

河合隼雄 (1986) 『心理療法論考』 新曜社 , pp. 288-296

下山晴彦 (2000) 臨床心理学研究とは, 下山晴彦 (編著) 『臨床心理学研究の技法』 福村出版, p.14

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