臨床心理学研究法

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2017-05-14 2100. 研究法 コメントはまだありません

臨床心理学研究法

目次

1 メニュー

項目 概要
質的研究法 質的研究法の詳細説明
質的研究法-GTA GTA の概要
量的研究法 量的研究法の詳細
面接法 面接法の概要
観察法 観察法の概要
   

2 はじめに

臨床心理学に興味を持ち勉強を続けていく中で研究テーマを見つけようとしても、どうやってテーマを決めれば良いのか解らなかった。しかし、当然のことであるが、臨床心理学研究法を学んでいく中で、テーマの探索そのものがすでに研究である事に気付いた。そして、どのような研究方法を使ってテーマを設定するのが良いのか? また、研究目的を明確化することも重要な点であることに気付いた。ここでは、臨床心理学研究法の概要について述べてみたい。

勉強とは、すでに蓄積されている情報を検索し自らの知識とすることで、いわば「知識の吸収」である.一方、研究というのは、自ら追求して何らかの結論を得ることであり、「知識の生産」といえるだろう.

南風原 朝和, 下山 晴彦, & 市川 伸一 (編). (2001). 心理学研究法入門 – 調査・実験から実践まで. 東京大学出版会.

3 臨床心理学による援助の方法

3.1 心理アセスメント

問題の状況や課題などを面接や心理検査などによって明らかにし、自己理解や支援に役立てる。

3.2 心理面接

心理カウンセリング・心理療法といわれるもので、相談に来られた方々の課題に応じて様々な臨床心理学的方法を用いて心理的な問題の克服や困難の軽減に向けて支援する。

3.3 臨床心理的地域援助

個人だけでなく、その人を囲む環境への働きかけ、情報整理、関係の調整を行ったり、他の専門機関と連携する。

3.4 研究活動

臨床心理学の知見を確実なものにするための研究活動。

4 研究の意義

心理学的知識や技法を用いて援助する実践であると同時に、その実践活動のための理論や技法を洗練し、一般化できるように研究する学問。

臨床心理学の研究者は同時に実践家であり、研究と実践は同時に行われる。すなわち、科学的探究と専門的援助実践が柱となり、現在、科学者-実践家モデルが臨床心理学教育のモデルとされている。

齋藤高雅, &元永拓郎. (2012). 臨床心理学研究法特論 (放送大学大学院教材) (新訂). 放送大学教育振興会.

5 主な領域

研究対象の領域のことであり、主な領域として以下のものがある。

5.1 医療・保健関連領域

主に精神科、心療内科、小児科などの診療科で臨床心理士として勤務し、心理臨床を実践する。また、ターミナルケアなどで他科とのリエゾン領域で働く臨床心理士や内科でのHIVカウンセリング、産婦人科での不妊外来カウンセリングや遺伝カウンセリングなどの領域もある。
伝統的に関連が最も深いのは精神科であり、精神科では心理査定、心理療法、心理相談などが臨床心理士の中心的業務となる。その他、デイケア、集団療法、生活指導などの場で医師、看護師、精神保健福祉士、作業療法士などとチームを組み協力しあいながら行う仕事も多い。

5.2 教育関連領域

教育相談所、学校、適応指導室、学生相談室などが実践の場となる。児童の発達上の問題や友人関係、学業上の問題、また生き方の問題や進路選択の問題などの相談が多い。カウンセリング、心理療法が中心に行われる。

5.3 労働・産業関連領域

職場の相談室、健康管理室、カウンセリング機関、ハローワーク、障害者職業センターなどが主な実践の場となる。最近はEPA (Employee Assistance Program 従業員支援プログラム)など職場以外の相談・心理療法機関に従業員の相談を委託する形態がみられる。

5.4 福祉関連領域

児童相談所、児童福祉施設、身体障害者更正援護施設、知的障害者援護施設、婦人保護施設、母子福祉施設、精神障害者社会復帰施設、老人福祉施設、その他の保護施設や社会福祉施設があり、子供から高齢者まで様々な福祉施設がある。子供の心身の発達、非行、障害児・者、高齢者などそれぞれの施設に応じた心理的援助の工夫が必要となる。

5.5 司法・矯正関連領域

過程裁判所、少年鑑別所、少年院、拘置所、刑務所、保護観察所、警察関係の相談所などで触法行為、非行や犯罪などの社会的逸脱行為を行った人々が対象となる。心理的、環境的問題を心理検査や調査を行って解明し、社会的処遇を決定する際の調査や矯正に向けての心理面接などを行う。

5.6 育児支援領域

乳幼児とその養育者への支援を行う。保育・保健の専門家や乳幼児を持つ親や支援グループなどが対照。

5.7 異文化カウンセリング

人々の移動がグローバル化することにより、自国文化以外の文化やそれらの背景に持つ人々との接触の機会が増えることにより、異文化間のカウンセリングの需要が増してきている。

5.8 その他

震災などの災害による心のケアなど緊急支援活動などにみられる危機介入的な活動など、臨床心理士の社会的な認知が進むにつれて活動範囲が拡大してきている。

6 主な研究法

以下の各研究法の詳細についてはそれぞれのリンク先を参照。

6.4 投映法(投影法)

6.5 実験法

6.6 事例研究法

6.7 評価(効果)研究法

6.8 領域と研究法 心理療法

6.9 領域と研究法 アセスメント

6.10 領域と研究法 家族研究

6.11 領域と研究法 高齢者研究

6.12 領域と研究法 コミュニティ・アプローチ

6.13 臨床における倫理

7 研究の基礎とプロセス

7.1 テーマの発見と問題意識

臨床研究のアイディアは主に心理臨床の現場で何らかの疑問や問題を感じることが出発点となる。疑問や問題を感じる感性は、より良い臨床を行う気持ちがあってはじめて感じるものである。

疑問や問題を感じたら、これらの疑問や問題を明らかにすることによる意義があるのかを考える。具体的には、研究の目的と意義の明確化である。これを怠ると良い研究は行えない。

7.2 先行研究の調査・検討

研究の目的や意義が明らかになったところで、先行調査を行う。先行調査を行うことにより以下を知ることができる。

  • 自分の考えている疑問や問題は既に解決されているのか?
  • 或いは、自分の考えている疑問や問題に対して新たに付け加えることはあるのか?
  • これまでに解ったことは何か?

これらについて自分が考えてた疑問や問題点に対して新たな情報を得ることができる。

7.2.1 文献調査

先行調査を行うためには文献調査を行う。文献といっても種類があるので、ここではその種類について説明する。

  • 原著 (original articles)

オリジナル研究であり、新しい知見、発見を述べたもの

  • 総説 (review articles)

あるテーマに関する先行研究を取り上げ、問題点を指摘し、研究の動向や進展を紹介するもの

  • 研究報告 (research and practice)
  • 事例研究 (case studies)
  • 資料 (information)
  • 短報 (brief reports)

自分の関心、テーマが定まり、もし、総説や展望論文が見つかればそれを読むのが早道である。と同時に、その中の主要な原著論文に当たる。

7.2.2 文献の読み方

文献を読む際には書かれている内容に対して批判的に読むこと。書かれている内容に関して疑問を持つことである。
研究の目的、対象、方法、手続き、結果、考察において論理的・批判的に吟味しながら読むことである。

7.2.3 文献研究

あるテーマに関して先行研究の文献を系統的に収集し、その歴史的な展開、問題点の整理を行い、十分吟味した上で今後の課題を明瞭に示すものが、文献研究である。その際、考察に於いて独自の視点や提言がなされることが求められる。

7.3 研究方法・対象の選択

自分の研究テーマが決まり目的や意義が明らかになり実際に研究を進めていく上では研究方法や対象を決める必要がある。研究方法の種類としては上述した方法がある。下山 (2001) は、「臨床的記述研究」、「心理臨床活動の評価研究」、「因果関係を探る科学的研究」の3つに分類している。

7.3.1 臨床的記述研究

心理臨床実践の過程を記述し、そこから心理臨床に関する何らかの仮説・モデル・理論を構成していく研究であり、実践をとおしての研究の核をなすものである。具体的な研究方法として事例研究法や実践型研究法がある。

7.3.2 心理臨床活動の評価研究

心理臨床実践を対象として、その活動を評価する研究である。具体的な方法として、援助効果の評価研究法がある。

7.3.3 因果関係を探る科学的研究

統制された条件の下で生体としての人間の行動・認知・生理などのメカニズムやパターンを明らかにする研究法である。具体的な研究法として、心の病理学研究法、神経心理学研究、認知心理学研究法がある。

さらに下山 (2000) は、心理学研究法の分類として、「データ収集の場の型」、「データ収集の方法」、「データ処理の方法」という3段階を表した。

7.3.4 データ収集の場の型

実験(現実の統制)、調査(現実の抽出)、実践(現実への関与)に分類。

7.3.5 データ収集の方法

観察(行動で見ることでデータを得る)、検査(課題の遂行結果をデータとする)、面接(会話をとおしてデータを得る)に分類。

7.3.6 データ処理の方法

質的処理(定性)と量的(定量的)に分類。

データ処理の仕方 記述 分析
質的(定性的) 質的記述 質的分析
量的(定量的) 量的記述    量的分析

また、下山 (2001) は、事例研究の3段階を区別する。

  • (1)個別性・具体性を目指す事例報告の段階
  • (2)共通性・一般性を目指す事例検討の段階
  • (3)普遍性・抽象性を目指す事例研究の段階

上記(1)、(2)は教育訓練を目的とした面も強く、本格的な事例研究は(3)の段階を目指すものである。

7.3.7 臨床心理学における事例研究の類型

  • (1)会話記述型
  • (2)過程記述型
  • (3)ナラティブ記述型
  • (4)フィールド記述型

以上の様に臨床心理学の分野の研究では、いろいろな種類や形態の研究の仕方があるが、日本で通常、事例研究と言われているのは、上記(2)の過程記述型の事例研究が多い。

7.3.8 研究のタイプ

以下のタイプに分類される。

7.3.8.1 追試研究
  • 先行研究と同じ方法、同じ対象に対して実施し、同様の結果が得られるかを検討する
7.3.8.2 比較文化研究
  • 複数の文化圏の類似と際を論じ、文化を異にする集団に対してある事象が普遍的なものかを検討する
7.3.8.3 プロセス研究
  • 心理療法の開始から終結までに面接において起こることについての研究
7.3.8.4 実験研究
  • 精神病理を明らかにし障がいや疾病のメカニズムを明らかにする。
  • 心理臨床の技術や理論に実証的根拠を与える
  • 健常者 との比較から人に本来あるべき心理的機能や法則を見出す
7.3.8.5 効果研究
  • 二十盲検無作為化比較臨床試験
  • 無作為化比較臨床試験 (RCT)
  • EBM (evidenced -based medicine : EBM )
  • EBP (evidenced -based psychatry : EBP)
7.3.8.6 横断的研究
  • 同一時点における2つ以上の集団を比較する非時的研究
7.3.8.7 縦断的研究
  • 同一集団のデータを異なる時点でとって比較する時系列的研究
7.3.8.8 発達研究
7.3.8.9 アナログ研究
  • 非臨床群などを対象とした臨床心理学的研究

7.4 研究計画の立案・実施

研究目的、意義、研究方法や対象が決まれば、研究計画書を作成する。研究計画書には以下を記述する。

  • 研究目的
  • 問題の背景
  • 対象の選定
  • 方法
  • 統計的手法
  • 日程表

以下では質的研究と量的研究のデザインについて概要を述べる。

7.4.1 質的研究のデザイン

クライエントの話しを時間経過に沿い、事柄相互間の関係を理解しながら、また各々の出来事が本人にとってどういう意味を持っていたかを探りながら、これらを具体的に記述する。クライエントのストーリーを読み、全体の関係性が見え、キー概念が捉えられたとき、事例の理解ができ、新たな発見が得られる。その際、研究で用いる概念、用語の定義を明確にする必要がある。

  • 新しい技法の提示
  • 新しい理論・見解
  • 治療困難とされるものの治療記録
  • 現行学説への挑戦
  • 特異例

7.4.2 量的デザイン

仮説や前提の明確化、研究の枠組みやそのアプローチ(横断的調査か縦断的調査か)、さらに研究の限界、対象のサンプリングに際して、その選択基準、選択方法とその手順などを明らかにする必要がある。量的なデータの分析に際しては、データのタイプ(名義尺度、順序尺度、間隔尺度、比率尺度)、パラメトリック・データかノンパラメトリック・データか、どのような統計解析手法を用いるか、などについて事前に検討が必要である。特に、サンプリングに関しては対象の偏りをいかに排除するか、いかに一般化できるかということに十分に検討する必要がある。

7.4.3 研究計画書の必要性

以下に研究計画書に記載する項目について述べる。

7.4.3.1 標題

研究論文の内容を的確に表し、標題のみでその内容が分かることが望ましい。

7.4.3.2 研究目的

問題意識や作業仮設の明確化から生まれた研究の目的、意義を明確に記載する。

7.4.3.3 研究の背景

先行研究の文献検索の総括と今回の研究の必要性、意義を述べる。先行研究の結果、浮かび上がった諸問題と今回の研究目的における作業仮説を対応させ、且つ、研究の位置づけを明確に述べる。

7.4.3.4 研究対象

対象者の選択手順や選択基準などを明示する。例えば、疾患の定義や診断基準などを記載する。

7.4.3.5 研究方法

質的研究か量的研究なのかによってアプローチが異なる。前述のデザインを参照。

7.4.3.6 評価方法の検討

評価尺度、質問票、面接法など、どのような評価方法を用いたのかを記載する。例えば、使用する評価方法が評価尺度であれば、信頼性、妥当性の検討がなされたものであるかに注意を払う。

7.4.3.7 脱落例

脱落、欠損に関する記述。脱落理由や事後処理方法について記載する。対象データについて、脱落や欠損値の影響などを含めたバイアスの検討。

7.4.3.8 結果分析

作業開始前に統計分析処理をどのように行うかを予め検討しておく。

7.4.3.9 必要経費

調査を行う際、調査用紙、郵送料、ライセンス料など経費がかかることがある。経済的な面での検討を行う。

7.4.3.10 日程表

準備、実施、まとめの各段階を、最終提出日より逆算して計画を立てる必要がある。

7.4.3.11 最終準備

研究倫理委員会の研究実施の承認が必要。また、医療機関では研究・調査の実施に際しては長の承諾を得る必要がある。さらに協力者のインフォームド・コンセントや研究同意書を得る必要がある。

7.4.4 結果の分析・解釈・考察

7.4.4.1 結果
  1. 質的研究

    質的研究の場合、面接記録が主要データとなる。

  2. 量的研究

    データの偏りチェックを最初に行う。脱落例、欠損値の処理の仕方の検討が必要。

7.4.4.2 考察

結果を踏まえ、論考し、結論を導くことが大切。様々な角度、多角的な視点からの検討が必要。また、当該研究の限界などや今後の課題について触れること。

7.4.4.3 要約

要約は、一般に論文の内容を通常最後にまとめたものであり、全文を読む時間がない読者に対してその概要を示したものである。以下について記述する。

  • 研究課題
  • 方法
  • 対象
  • 結果
  • 結論

おおむねワンパラグラフからなる。最近では要約ではなく抄録を求める学術誌が増えている。抄録は論文全体の内容の重要点を簡潔にまとめたものである。

7.4.4.4 文献

論文の場合、文献は引用論文が中心。参考論文は研究の背景の理解や更なる知識を得るのに役立つものを挙げる。この点は書籍の提示の仕方とは異なる。文献の記載の仕方は、投稿する雑誌によって異なっているため、投稿規程にしたがって記載すること。英文の場合は、APA 方式に準拠するのが一般的である。また、インターネットから引用する場合は、 URL を明記すること。

7.4.5 研究の発表

7.4.5.1 学会発表

口頭発表やポスター発表などの形式がある。自分の研究の要点を簡潔に要領よくまとめる工夫や努力が必要である。口頭発表の場合は、話し言葉で発表原稿を作成する。

7.4.5.2 論文作成・投稿

学会誌などの投稿規程、執筆要領にしたっがって形式を揃える必要がある。雑誌により投稿規程枚数、引用論文の表記方法などが異なるため注意が必要。

8 引用文献

齋藤高雅, &元永 拓郎. (2012). 臨床心理学研究法特論 (放送大学大学院教材) (新訂). 放送大学教育振興会.

河合隼雄 (1986) 『心理療法論考』 新曜社 , pp. 288-296

下山晴彦 (2000) 臨床心理学研究とは, 下山晴彦 (編著) 『臨床心理学研究の技法』 福村出版, p.14

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